ここまでの流れを整理します。
- 痛みは「壊れている証拠」とは限らない
- 慢性痛は“危険モードが固定された状態”である
- 内受容感覚は身体の状態を翻訳する機能である
- その翻訳機は再学習できる
では、なぜ「安心」がそこまで重要なのか。
今日は慢性痛の核心に入ります。
1. 痛みは「危険を知らせる装置」である
痛みの役割はひとつです。
生き延びるために、危険を知らせること。
骨が折れたときに痛むのは、動きを止めるため。
炎症があるときに痛むのは、回復を優先させるため。
問題は、慢性痛では
本当の危険がなくても警報が鳴り続けることです。
ここに関わるのが、自律神経の仕組みです。
2. ポリヴェーガル理論で見る「安心」の正体
ポリヴェーガル理論では、
自律神経は大きく3つの状態を行き来すると考えます。
① 交感神経優位(闘争・逃走)
② 背側迷走神経優位(シャットダウン)
③ 腹側迷走神経優位(安心・つながり)
慢性痛の多くは、①か②に固定されています。
- 常に緊張している
- 休んでも抜けない
- ぼーっとする
- 気力が出ない
これらは神経の状態です。
そして③の状態、
腹側迷走神経が働いているときにだけ、
身体は「安全」と判断します。
安全が確認されると、
- 筋緊張がゆるむ
- 炎症反応が落ち着く
- 痛覚過敏が下がる
つまり、安心は感情ではなく
生理学的スイッチなのです。
3. なぜ慢性痛の人は安心できないのか
多くの方がこう言います。
「もう大丈夫なはずなのに痛い」
それは外側の状況ではなく、
神経がまだ安全と判断していないからです。
特にあなたのように、
- 責任感が強い
- 人に迷惑をかけたくない
- ちゃんとしていたい
こういう傾向がある場合、
長年“危険モード”で生きてきた可能性があります。
身体は学習します。
長く緊張してきた人は、
緊張が“通常状態”になります。
その結果、
リラックスすること自体が
どこか不安になるのです。
4. 安心が痛みをほどく神経学的メカニズム
安心状態では、次の変化が起きます。
- 扁桃体の活動低下
- 前帯状皮質の過活動の抑制
- 下行性疼痛抑制系の活性化
- 炎症性サイトカインの低下傾向
つまり、
脳が痛みを増幅しなくなる
これが「安心が痛みをほどく理由」です。
安心は心理的慰めではありません。
神経系の調整作用です。
5. 安心はどうやって作るのか
安心は「考え方」では作れません。
神経レベルで作ります。
具体的には:
- ゆっくり長い呼気
- 優しい声
- 安定した視線
- 触れられる感覚
- 信頼できる人との対話
これらは腹側迷走神経を刺激します。
だからセッションでは、
説明よりも“場の安全性”を重視します。
理解より先に、神経を落ち着かせる。
順番が逆だと、
痛みは動きません。
6. 「治そう」とするほど治らない理由
慢性痛の罠はここです。
「早く治さなきゃ」
「このままじゃダメ」
この焦り自体が、
交感神経を刺激します。
つまり、
治そうとする努力が
神経を再び危険モードに戻してしまう。
必要なのは、
治すことより
安全を積み重ねること。
小さな安心の反復が、
神経の学習を書き換えます。
7. あなたの身体は壊れていない
慢性痛の本質は、
故障ではなく、
過剰な防御です。
あなたの身体は、
弱いのではありません。
守り続けてきただけです。
その防御を、
「もう大丈夫だよ」と
神経に伝えていく。
それが回復です。
次回予告
次回は、
「痛みは敵ではない —— 慢性痛の意味」
痛みを“消す対象”ではなく、
“読み解く対象”に変えたとき、
回復はどう変わるのか。
慢性痛の最終段階に入ります。
静岡・沼津・三島・函南のこころねセラピー:秋山幸徳


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