あなたは知らず知らずのうちに、心を消耗させていませんか?
静岡・沼津・三島・函南のこころねセラピーの秋山幸徳です。
「人前では泣かないようにしよう」「イライラしても顔に出さないようにしなきゃ」
社会で生きる私たちは、時に自分の感情に“ブレーキ”をかけなければならないと感じます。それは「大人としての成熟」や「周りへの配慮」の証だと信じている方も多いでしょう。
しかし、もしその「感情を押し殺す習慣」が、あなたの心を静かに、そして確実に疲れさせているとしたら?
心理学研究は、私たちの常識とは裏腹に、感情にフタをすることが心の健康にとって最もコストの高い戦略であることを明らかにしています。
こころねセラピーで多くのクライエント様と向き合う中で、この事実に気づくことが、心の回復への最初の、そして最も重要な一歩だと感じています。今日は、あなたの心の健康を左右する「感情との賢い付き合い方」について、深掘りしていきましょう。
セラピストが伝える、心の仕組みと健康的な感情調節
1. 感情を「抑え込む」ことが、あなたの心を重くする理由
心理学者のGrossとJohn(2003)が行った画期的な研究は、私たちが長年抱いてきた「感情を隠すことが美徳」という考え方に疑問を投げかけました。
この研究が指摘する、最も心に負担をかける感情調節の方法が、**感情抑制(expressive suppression)**です。
これは、心の中に怒りや悲しみが湧き上がった後で、それを表情や態度に出さないように、必死で抑え込もうとする行為です。「感情を隠す」という、多くの方が無意識に行っている行為です。
【心理学が示す深刻な結果】 研究で明らかになったのは、この感情抑制を頻繁に使う人ほど、抑うつや不安のレベルが高く、自己肯定感が低く、さらに対人関係の質まで低いという、衝撃的な傾向でした。
なぜでしょうか?それは、感情を常に「監視し、抑圧し続ける」という行為が、私たちの認知的リソース(精神的なエネルギー)を継続的に消耗させるからです。例えるなら、アクセルとブレーキを同時に踏み続けるようなもの。この絶え間ない自己監視こそが、あなたの心を静かに疲弊させている「コスト」なのです。
2. 心の健康のカギ:感情の「源流」に働きかけるスキル
では、感情を抑えるのが逆効果なら、私たちはどうすれば心の健康を保てるのでしょうか?
研究が対案として提示し、私たちがセラピーで最も重視するスキルが**認知的再評価(cognitive reappraisal)**です。
これは、感情を引き起こす出来事そのものに対して、その解釈や捉え方を変えることで、結果として生じる感情を変化させる戦略です。
- 「この問題は、長期的に見ればそれほど重大ではない」
- 「この経験は、私に何か新しい教訓を与えてくれているのかもしれない」
このように、出来事を別の角度から「再評価」することで、感情の強さを和らげます。
【驚くほど健康的な効果】 感情抑制とは正反対に、認知的再評価を頻繁に用いる人ほど、抑うつや不安が低く、自己肯定感が高く、対人関係も良好という結果が得られました。
なぜこれが効果的なのか?それは、感情が完全に形作られてしまう**「源流」に、より能動的に介入する**からです。一度溢れ出した強い感情を無理やり押し戻すよりも、水量を調整する方がはるかに負担が少なく、根本的な解決につながるのです。
3. 現代心理療法における「認知的再評価」の位置づけ
GrossとJohnの研究成果は、単なる学術論に留まらず、現代の心理療法に大きな変革をもたらしました。
特に、こころねセラピーでも取り入れている**認知行動療法(CBT)**は、この知見を深く反映しています。
現在のCBTの主要な目標の一つは、クライエント様がストレスの多い状況に対して、より柔軟で建設的な考え方を選べるよう、「認知的再評価」のスキルを向上させることにあります。
これは、感情を賢く調節するこの方法が、臨床現場で最も信頼性の高い、心の回復を促す確かな技術として認められている証拠なのです。
あなたの「心の健康」は、感情との「付き合い方」で決まる
私たちの心の健康は、感情を「消す」ことではなく、**感情とどう「付き合うか」**という調節スキルによって決まります。
もし今、あなたが感情に蓋をすることで心の重さを感じているなら、それはあなたが弱いからではありません。ただ、感情調節の「コストが高い」方法を選んでしまっているだけなのです。
これからは、湧き上がった感情を無理に押し殺すのではなく、**「この状況を、もし別の意味づけができるなら?」**と、物事の捉え方を少しだけ変えることから始めてみませんか。
その小さなシフトこそが、あなたの心を健やかに保つための、最も賢く、持続可能な一歩となるでしょう。


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