前回まででお伝えしてきたことを、ここで一度整理しましょう。
- 痛みは「壊れているサイン」とは限らない
- 慢性痛の背景には、自律神経の過覚醒がある
- その状態を左右するのが 内受容感覚(interoception) である
そして私は、こう表現しました。
内受容感覚は「身体の状態を翻訳する機能」である
今日は、この「翻訳機」をどう整えるかについて具体的にお話しします。
1. なぜ翻訳機が乱れるのか?
慢性痛を抱えている方の多くは、非常に頑張り屋です。
特に40代・50代の女性に多いのは、こんな傾向です。
- 自分より家族を優先する
- 多少の不調は「気のせい」として無視する
- 休むことに罪悪感がある
- 感情を外に出さない
この状態が長く続くとどうなるか。
身体からの微細なサイン(疲労・緊張・違和感)が
脳に正しく伝わらなくなります。
すると翻訳機はこう誤作動します。
- 「少し疲れている」→「まだいける」
- 「緊張している」→「気合が足りない」
- 「怖い」→「我慢すべき」
結果として、限界を超えて初めて
「痛み」という強い信号で止めるしかなくなるのです。
慢性痛は、
壊れた身体ではなく、過労した翻訳機の問題でもあるのです。
2. 内受容感覚とは何を感じる力か?
内受容感覚は、以下のような情報を扱います。
- 心拍
- 呼吸
- 胃腸の動き
- 体温
- 筋肉の緊張
- 内側からの「安心」「不安」
これは単なる身体感覚ではありません。
「私は今、安全か?」を測るセンサーです。
慢性痛の方は、
この安全センサーが常に「危険寄り」に傾いています。
だから、
- 少しの刺激が強い痛みになる
- 小さな違和感が恐怖になる
- 不安が増幅する
という現象が起きます。
3. 翻訳機を整えるとは何をすることか?
重要なのは、
痛みを消すことではなく、解釈を整えることです。
翻訳機を整えるとは、
「これは危険か? それとも一時的な変化か?」
を丁寧に再学習させること。
つまり脳の再教育です。
慢性痛は「誤学習」です。
ならば、再学習が可能です。
4. 内受容感覚トレーニング(基礎編)
ここから具体的な方法です。
① 呼吸の観察(評価しない)
1日3分で構いません。
- 胸が動いているか
- お腹が動いているか
- 吸う方が長いか、吐く方が長いか
変えようとしない。
ただ観察する。
これは翻訳機の再校正です。
② 10段階で今の身体を数値化する
「今の緊張は10段階でいくつか?」
これを1日数回、自分に問いかけます。
数値化するだけで、
- 漠然とした不安
- 漠然とした痛み
が具体化します。
具体化されると、脳は過剰反応しにくくなります。
③ 「安心ポイント」を探す
痛い場所ではなく、
- 触れている椅子の感覚
- 足裏の温度
- 手のぬくもり
を探します。
慢性痛の脳は、危険探知モードに固定されています。
安心探知モードを再起動させるのです。
5. なぜこれで痛みが変わるのか?
内受容感覚が安定すると、
- 扁桃体の過活動が下がる
- 前頭前野の制御が働く
- 自律神経が安定する
結果として、
痛みの増幅ループが弱まります。
これは精神論ではありません。
神経生理学的プロセスです。
6. 慢性痛の本質的転換
慢性痛の回復は、
「治す」から
「安全を学び直す」へ
視点を変えた瞬間に始まります。
あなたの身体は壊れていない。
ただ翻訳機が疲れているだけ。
そして翻訳機は、
訓練すれば必ず整います。
次回予告
次回は、
「安心が痛みをほどく理由」
なぜ「安心」が最強の鎮痛作用を持つのか。
ポリヴェーガル理論と慢性痛の関係から解説します。
慢性痛の核心に入ります。

コメント